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神戸地方裁判所 平成6年(ワ)2384号 判決

反訴原告

藤原隆夫

反訴被告

株式会社神戸河西運輸

ほか一名

主文

一  反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して金四九八万一〇八七円及びこれに対する平成四年九月五日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を反訴被告らの負担とし、その余を反訴原告の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  反訴請求の趣旨

1  反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して一二〇九万九三四〇円及びこれに対する平成四年九月五日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  反訴請求原因

1  交通事故の発生

反訴原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて傷害を受けた。

(一) 日時 平成四年九月五日午前〇時三五分ころ

(二) 場所 神戸市灘区新在家南町三丁目県道高速神戸西宮線下り二五・九キロポスト(以下「本件道路」という。)

(三) 加害車 普通貨物自動車(神戸一一う六七六〇)

(四) 加害車運転者 反訴被告野澤

(五) 加害車所有者 反訴被告株式会社神戸河西運輸(以下「反訴被告会社」という。)

(六) 被害車 普通乗用自動車(神戸五五え五二五五)

(七) 被害車運転者 反訴原告

(八) 態様 反訴原告が被害車を運転して本件道路を西進中、前方走行車両から積荷が路上に落下して転がつたため、これを避けるためブレーキをかけたところ、追走してきた加害車に追突された。

2  反訴被告らの責任

反訴被告野澤は、本件事故当時、車間距離を八メートルしかとらず、かつ前方注視を怠つて加害車を運転していたため、被害車に追突したものであるから、前方注視義務違反及び適切な車間距離保持義務違反の過失がある。

反訴被告会社は加害車の運行供用者である。

したがつて、反訴被告会社は自賠法三条により、反訴被告野澤は自賠法三条、民法七〇九条によりそれぞれ反訴原告が受けた損害を賠償する責任がある。

3  反訴原告の負傷の内容、程度及び治療経過

(一) 反訴原告は、本件事故により、頸部捻挫、外傷性頸部症候群の負傷を受けた。

その症状は、頸部・頭部痛が一日中続いて大変辛く、吐き気、両上肢のしびれが時々続き、冷えると左腕がびくつと動き、首が痛くてがまんできないほどである。振動によつても首は痛くなる。耳の穴の側面も時々痛くなり、口を大きく開けると痛い。重いものを持つと症状が増悪し、気分が悪くなる。こうした症状は現在まで続いている。

(二)(1) 平成四年九月五日から同年一二月五日まで九二日間、アキヨシ整形外科病院に入院

(2) 同年一二月六日から平成六年二月四日まで同病院に通院(実治療日数二〇三日間)

(三) 後遺障害

反訴原告の症状は、平成六年二月四日、固定した。

反訴原告の右症状は、自賠責保険において非該当と認定されたが、前記の症状から、少なくとも自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級(以下単に「何級」とのみ略称する。)ないしは一四級に該当する。

4  原告の損害

(一) 入院雑費 一二万八八〇〇円(一日当たり一四〇〇円として九四日間)

(二) 通院交通費 一八万二一四〇円

(1) タクシー代が片道六九〇円で一〇三日間利用 一四万二一四〇円

(2) バス代が片道二〇〇円で一〇〇日間利用 四万円

(三) 休業損害 八五〇万円

反訴原告は、本件事故当時、昼間は靴の加工業の職人として働き、一か月二〇万円の収入を得ており、夜はタクシーの運転手として勤務し、一か月三〇万円の収入を得ていた。

反訴原告は、本件事故により一七か月、休業した。

したがつて、その休業損害は、頭書金額となる。

(四) 傷害慰謝料 二〇〇万円

(五) 後遺障害による逸失利益 二六一万八四〇〇円

反訴原告は、一二級の後遺障害により、少なくとも五年間にわたり一〇パーセントの労働能力を喪失するとみるのが相当である。

したがつて、その逸失利益は次のとおり、頭書金額となる。

500,000×12×0.1×4.364=2,618,400

(六) 後遺障害による慰謝料 一五〇万円

(七) 弁護士費用 八〇万円

5  損益相殺

反訴原告は、反訴被告らから休業損害の内金として三六三万円の支払を受けた。

6  よつて、反訴原告は、反訴被告らに対して連帯して、前記4の損害合計額一五七二万九三四〇円から5の損益相殺額三六三万円を控除した一二〇九万九三四〇円及びこれに対する本件不法行為の日である平成四年九月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  反訴請求原因に対する認否

1  反訴請求原因1は認める。

2  同2中、反訴被告会社が加害車の運行供用者であることは認め、その余は争う。

3  同3のうち、反訴原告主張の入院については認め、症状固定日は否認し、その余は不知。反訴原告の傷害は、遅くとも、平成四年一二月五日には治癒した。

4  同4は不知。

5  同5は認める。

三  抗弁(過失相殺)

反訴原告は、本件事故当時、オイル缶を発見して走行車線の進路変更を行う等適切な回避措置をとることが可能であつたにもかかわらず、突然、時速一〇〇キロメートルで高速走行中の被害者を急制動させたため、本件事故が発生したものであるから、反訴原告にも過失があるというべきであり、反訴原告の損害額につき、相当な割合の過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人目録の記載を引用する。

理由

一  本件事故の発生

当事者間に争いがない。

二  反訴被告らの責任

反訴被告会社が加害車の運行供用者であることは当事者間に争いがなく、反訴原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、反訴被告野澤は、本件事故直前、加害車を運転し、制限速度時速六〇キロメートルのところ、時速約一〇〇キロメートル程度の速度で進行中の被害車の約八メートル後方を追走中、被害車が急ブレーキをかけて停止したが、前方注視が十分でなかつたこともあつて、その発見が遅れて同車に追突したことが認められる。

右認定によると、反訴被告野澤は、本件事故当時、前方注視義務違反ないしは車間距離保持義務違反の過失があつたといわざるをえないから、民法七〇九条により、反訴被告が受けた後記損害を賠償する責任がある。

また、右によると、反訴被告会社は、自賠法三条により、右損害を賠償する責任がある。

三  反訴原告の負傷の内容、程度及び治療経過

1  原本の存在及び成立に争いがない甲第一ないし第四号証及び第六号証の各一、二、第五号証、成立に争いがない甲第七号証の一ないし三、第九、第一〇号証、第一二ないし第一四号証の各一、二、乙第一、第二号証、第七号証、第八号証の一、第九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第八号証の二、第一〇号証、反訴原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一)  反訴原告は、本件事故により頸部捻挫、外傷性頸部症候群の負傷を負い、アキヨシ整形外科病院で平成四年九月五日から同年一二月五日までの九二日間入院し、同月六日から平成六年二月四日まで通院し(実治療日数二〇三日間)、同日、症状固定した。

(二)  その固定時、自覚症状として、頸部・頭部痛が一日中続いて大変辛く、吐き気、両上肢のしびれが時々続き、約一〇キログラム程度の荷物を持ち上げると、症状が著しく増悪し、他覚症状として、知覚異常、知覚鈍麻、しびれ感が残つた。

反訴原告は、その後も、冷えると左腕がびくつと動き、首が痛くてがまんできないほどであり、振動によつても首は痛くなり、耳の穴の側面が時々痛く、口を大きく開けると痛く、重いものを持つと症状が増悪し、気分が悪くなつた。こうした症状は現在まで続いている。

(三)  反訴原告は、自賠責保険に対し、後遺障害が残つたとしてその保険金の請求をしたが、平成六年九月、非該当であると処理され、その通知を受けた(乙七)。

その理由は、頸部痛等の訴えにつき、レントゲンによる検査結果上、特段の異常は認められず、退院後から平成五年一二月までの治療期間、診断書によれば、すべて「外来通院ににて経過良好」と記載されており、神戸市立西市民病院における同年一月二八日の診断も「後頸部痛以外に理学的所見には異常なし」とされているところ、平成六年一月から同年二月四日アキヨシ整形外科病院の診断書では「頸部痛及び吐き気が強く続いている。」旨の自訴が記載されているが、受傷後約一五か月間経過良好であつたものが、その後症状が急激に悪化することは、本件事故に起因するものとは判断し難いから、自賠法上の後遺障害として捉えられないとの判断によつている。

(四)  反訴原告は、平成六年一二月、右につき、異議申立をした(乙八の一)。しかし、平成七年二月、本件は、自訴主体の不定愁訴と認められ、外傷との因果関係も判然とせず、自訴主体の症状については、将来的に残存する自賠責保険上の後遺障害として捉えることは困難であることなどから、既認定通り非該当と判断された。

2  右認定によると、反訴原告の右入、通院による治療が過剰とはいえず、相当というべきであるが、症状固定時、原告に自覚及び他覚症状が残つたものの、自賠責保険の後遺障害等級に該当することを認めるに足りる明確な証拠があるとはいえない。

なお、反訴被告らは、反訴原告は遅くともアキヨシ整形外科病院を退院した平成四年一二月五日には治癒しており、その後の通院治療の継続は、同様の投薬等の治療を漫然と繰り返しているだけで、治療効果としてはなんらの効果も挙げていないと主張するが、本件事故は高速道路上の追突事故であり、反訴原告は本件事故直後から頭痛等頸部捻挫の典型的な症状を訴え、特に詐病とみられるような事情も存しないこと、頸部捻挫等の医学的解明は完全ではなく、靱帯、神経根、血管等の微細な損傷に起因する場合には、一般に他覚所見が明確になりにくいことは病態の特殊性からあり得ることであり、他覚的所見が乏しいことをもつて直ちに退院後の通院治療はなんらの効果も挙げていないとする反訴被告らの主張を認めることはできない。

四  損害

1  入院雑費 一一万九六〇〇円

入院雑費については、一日当たり一三〇〇円が相当であるところ、反訴原告の入院日数は前記の九二日間であるから、一一万九六〇〇円が相当な入院雑費である。

2  通院交通費 一三万円

反訴原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、反訴原告は、アキヨシ整形外科病院への通院にタクシーとバスをほぼ半々の割合で利用したが、タクシー料金は片道六九〇円、バスの片道料金は二〇〇円であり、合計一八万二一四〇円程度を支出したことが認められる。

右認定に反訴原告の受傷の内容、程度等を加味して考えると、原則としてバスによる通院が可能であつたというべきであり、タクシーによる通院の必要はせいぜい四分の一程度というべきであるから、相当な通院交通費は一三万円程度となる。

3  休業損害 七二七万三八三〇円

反訴原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨並びにこれらにより真正に成立したと認められる乙第三号証の一ないし三、第四号証、第六号証によると、反訴原告は、本件事故当時、昼間、「藤沢産業」で靴の加工業の職人として働き、月額二〇万円の給与の支給を受け、本件事故数か月前から夜間はタクシーの運転手として勤務し、同事故前二か月間で五六万九八四四円の給与の支給を受けたこと、本件事故による一七か月の休職期間中、右各給与は支給されなかつたことが認められる。

右認定によると、反訴原告の本件事故当時の月額給与合計額は四八万四九二二円というべきであり、その受傷の内容、程度、実治療日数等を加味して考察すると、本件事故による相当な休業期間は一五か月程度とみるのが相当である。

そうすると、休業損害は七二七万三八三〇円となる。

4  逸失利益 〇円

反訴原告の本件事故による症状が固定し、後遺障害につき自賠責保険により非該当と認定されたことは前記のとおりであるから、反訴原告主張の逸失利益を認めることはできない。

5  慰謝料 一六〇万円

反訴原告の傷害の内容、程度、入・通院期間その他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、反訴原告が本件事故によつて受けた精神的慰謝料は一六〇万円をもつて相当とする。

6  右損害合計額 九一二万三四三〇円

五  過失相殺

前記二の認定によると、前方を走行中のトラツクからドラム缶様の落下物を発見したため、これを避けるためにやむなく急制動したものであるから、反訴原告の右急制動につき過失があるとはいえないが、反訴原告は、本件事故当時、反訴被告野澤と同様、制限速度を時速四〇キロメートル程度超過して被害車を運転していたことは前記のとおりであるところ、右速度違反は本件事故態様を考えると本件事故の一因というべきであるから、反訴原告にも過失があるといわざるをえない。

そこで、その他諸般の事情を考慮して、反訴原告と反訴被告野澤の過失を対比すると、反訴原告が一割で、反訴被告野澤が九割とみるのが相当である。

すると、過失相殺後に反訴原告が請求できる金額は、八二一万一〇八七円となる。

六  損益相殺

反訴原告が反訴被告らから休業損害の内金として金三六三万円の支払いを受けたことについては、当事者間に争いがない。

そこで、その後に反訴原告が請求できる金額は、四五八万一〇八七円となる。

七  弁護士費用 四〇万円

本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は四〇万円が相当である。

八  結論

以上のとおり、反訴原告の請求は、反訴被告らに対して連帯して、損害金四九八万一〇八七円及びこれに対する本件不法行為の日である平成四年九月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本分、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横田勝年)

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